ある外科医の話② ~お客様の中に、お医者さんいらっしゃいませんか?高度1万メートルで救命活動~
今週のお題「怖い話」
医者になって怖い思いは何度もあります。
研修医を終えて、初めて赴任した病院で頂いた夏休み。両親と幼少期を過ごしたロサンゼルスに向かっていました。
夕食を終えて、機内番組を見ながら寝てしまっていたところに、突然のドクターコール。「お客様の中に、お医者さんいらっしゃいませんか?」 当直(夜勤)中と勘違いをして、思わず通路に飛び出してしまっていました。
乗務員に誘導されて行ったさきの機内最後尾のトイレの前には高齢の男性が心肺停止状態で倒れていました。ドクターキット(航空機内に常備されている医師が応急処置できる一通りの医療器具のセット)も用意され、心肺蘇生を行っているとICUで勤務しているという看護師さんが応援に来てくれました。
点滴から入れた薬に反応して、幸いにも脈が少しずつ安定してきました。でも呼吸は戻らず、人工呼吸をしていました。
乗務員のチーフ 「カナダのバンクーバーにダイバード(目的地外着陸)要請しますか?バンクーバーが一番近いのですが…。」
えっ私が、決めるの?国際便だよー。到着が、遅れたらトランジットのお客さんとかどうなるの?ジャンボジェットだよー。何人乗客乗っているの?責任取れないよー。
私 「点滴が足りません。脈は戻りましたが、呼吸は自力ではできていません。助かるかどうかはまだ分かりません。ダイバードするかどうかの判断は医者ですか?」
乗務員のチーフ 「分かりました。キャプテンに報告します。」
結局、バンクーバーに向かい、現地の救急隊員に患者さんをバトンタッチしました。患者さんはご家族と一緒に降りて行きました。
燃料補給している間に、もう一名、痙攣発作を起こした方が出てさっきの救急隊員に引き渡しました。
救急隊員「君はよく働くね。」
ようやくロサンゼルスに向かう形になりましたが、同空港が爆弾持ち込みの騒ぎで空港閉鎖になっているとの事で、空港上空で少し着陸が遅れました。
ダイバードで到着が遅れたフライトでしたが、予定時刻に到着してても飛行機から降りられない状況だったそうです。
飛行機の中では、モニターは無く、薬剤は十分では無かったですが、たまたま居合わせた看護師、乗務員の協力でなんとかその場を乗り切った感じでした。
でも、ダイバードするかどうかの判断を委ねるられた時は怖くて医師としては状況説明までの対応で済ませました。
15年以上前の事です。細かい記録は実家にありますが、コロナで行けません。もし、時系列で間違いがあった時は、後日訂正します。