ある外科医の話 ~手術中の大地震~

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今週のお題「怖い話」

妊娠9か月目の私は、その日午後から自分の担当患者さんの全身麻酔の手術(乳がん疑い)があり、後輩の執刀を指導しながら第1助手として手術室にいました。

しこりも予定通りとれて、血止めの確認、傷を縫ってもうすぐ手術が終わる予定でした。

足元がカタカタ揺れて、激しい横揺れが始まりました。

その時は首都直下型地震が来たと思いました。(手術中でニュースなどは確認できないため手術室の誰もが状況がわかりません。)

麻酔科の先生は麻酔器のモニターが激しい揺れで倒れそうになったので患者さんの頭を直撃しないように抑え、看護師さんたちは手術器具が飛び散らないように抑えたり、手術室のドアが閉まらないように抑えたりしました。私たち外科医は手術しやすいように傾けてあった手術台を水平に戻して重い無影灯(手術がしやすいようになっているライト)が患者さんを直撃しないように固定してある手術台を動かし再固定しました。

手術室と手術室の間の廊下では埋め込み型の蛍光灯が落ちきて、悲鳴があがり、映画さながらに電線が切れてスパークしていました。

自分では気がつかなかったのですが、たぶん興奮して紅潮してたのだと思います。手術室にいた同僚や医局から駆けつけてきた上司に、「今、力むなよ~。お願いだから今、患者(注:私が産気づくと私と赤ちゃんが患者になってしまう)増やすなよ~。」と言われました。

手術台が水平になったため、大きいおなかが邪魔で手術が続けられず、傷を縫い閉じるところはほかの医師に代わってもらいました。

傷が縫い閉じられた頃、東北で大地震があったことが伝えられました。

患者さんは揺れが収まってから、麻酔を覚ましたので後で面会のご家族から聞いてびっくりしたそうです。

医者になってから何度も怖い目に合っていますが、二度と体験したくありません。